DX3雛瀬・緋莉SS 『雨濡れの十字架』

『ダブルクロス　The3rd edition 』のオンラインセッション『World　End　Juvenile』にてPC2を務めた「雛瀬・緋莉」のSSであり、サイキックハーツとは無関係であることをご理解ください。
雛瀬・緋莉のPLはありすです。

SSの中身は「World End Juvenile」プレイ後の個人的EDになります。

あれから数週間。例の一件は一先ず片付き、また日常を過ごしている。日常といっても、世間一般に言う日常とは違う。任務と訓練と報告書の繰り返し。それが私の日常。UGNチルドレンであれば普通。
ひと段落して、宿舎からフラリと外へ。特に用事もない。言うならば気分転換。
空は生憎な曇り空だが……。

今思えば私にしては珍しい行動だった。今までの空き時間は殆ど訓練に当てていたから。

当てもなくフラフラと街を歩き、すれ違う人にもウインドウの向こうに静置されている商品にも無関心。ふと、物思いにふけるのは悪い癖かもしれない。
あの時から何と無く感じている、空白感とでも言えばいいのか…。何か欠けてしまったような感覚。
あの時……２年前に行方知れずになった“彼”と再会した数週間前。普通の再開なら、どんなに喜べただろう。暇さえあれば探すほどに大切な家族。
名を与え、名を貰い、共に過ごし、突然別れ、突然再開し、決別し、戦い、そして……
この手で与えた最後。
仲間を家族を失う事は多々あった、慣れてしまった筈なのに

――「リベレーターズのリーダー、『リベレーター』である元UGNチルドレン、ライトニングボルト、桐生嚆矢の処分は私…UGNチルドレン血塗れの十字架（ブラッディクロス）が、この場で行う！」
　　「悪くない幕切れだな」

何故、そこで受け入れてしまったの……数えきれないほど、己を血に染めてきたが、これだけは避けたかった。１番大切な人をこの手で殺めたくなどなかった。
でも、あれで良かったのだと思う。でも、他に道は無かったのかと問い掛ける。
だが、もう戻れないのだけは確か。過去は変えられないのだから。

――「そうやって自分を抑えようとするのは、自分の心を殺そうとしてるって事じゃないのか？」
「……違う。これが私の有り方なだけ」

自分の意思で道を選択していると胸を張っては言えない。結局、私はＵＧＮに、レネゲイドウイルスに縛られている。本当の自由も知らず、自由でもない。偉そうに語れるわけがないのに…。

「嚆矢…君は、私を憎んでいるのだろうか。」

憎まれてもおかしくないことをしてきた。
もし、あの時、その手を掴んで走り出していたら違った結果になっただろうか…

いや、平静であらねば。これ以上思考しては意味がない。意味はないのだが…
ピタリと足を止め、空を見上げる。
今にも降り出しそうな色の向こうを見て、ぽつりと呟く。

「嚆矢、本当の“自由”って、なに…」

頬を伝う"それ"は何だろうか。抑えきれなくなった感情が静かに溢れる。
何時の間にか降り出した雨とそれは溶けあい、多くの雫に紛れる。賑やかだった街は鎮まり、人の足音も遠くなる。
冷たい雨が髪に、頬に、手に、全身に伝わる。スゥッと目を閉じれば、雨の中に溶けていけそうで……。
ふと目を開いたのは隣に人の気配を感じたから。ただ、振り向かないのは、その気配が馴染みのあるものだったから。
「どうしたんだ、雨の中傘も差さないで。風邪引くよ」
差し出された傘によって、雨はあたらない。「なんでもない」そう答えるのに、顔を見ない。今の顔は誰にも見せられない。私が私に戻るまでは